微妙な気持ちになる出来事

普通であれば、気にも止めずに流してしまうのに、その時のタイミングで、なんとなく嫌な気分が残ってしまう事がある。

 

シングルマザーの夫の姉(小姑2)には、7歳になる息子がいる。

これがまあ、本当にとんでもない子供である。

そいつがこの前Japoという言葉を覚えたらしい。

 

Japoは、Japonés/Japonesa(日本人)の略で、夫いわくJAPのような蔑称ほど強い意味ではなく、単に短縮形のつもりで使っているスペイン人が多いそうなのだが、しかし目の前にいる日本人に「ねえ、そこのJapo」と呼びかけたら非常に失礼になる。

私自身Japoと呼ばれるのは、ビンタされるのと等しい屈辱である。

(でも普通、目の前にいる外国人に、「ねえねえそこのガイジン!」って呼びかけないよね。まともな神経をしていれば。)

 

それで、その子供がJapoという言葉をどこかで覚えて、私を見て「あ、Japoがきた!」と言ったらしい。私は言われたことに気づいていなかったのだが、子供はその場で目玉が飛び出るほど叱られたそうだ。ざまあみろ。

 

それをこの前、夫がうっかり口を滑らせて、私に喋りよった。

夫としては、小姑2がいかに子供のしつけを頑張っているかの一例として、何の気なしに挙げたらしいが、私はとても不愉快になった。この国にいると外国人というだけで、自分の尻もまともに拭けない子供からも、こんなことを言われたりする。子供自身は頭が悪いので、何も考えずに言っただけだろうが、なんだかげんなりする。

 

 

悪気はない、というのは怒りの向けどころがない分、なかなか厄介である。

もう知り合って5年近くになる大学教授が私の名前を間違えていて、ここ数ヶ月ずっと「ミチコ」と呼ばれている。本名に掠りもしない。誰だそれは。

 おまえ、ギリシャの学会で飛行機の席ずっと隣同士やったやろうが。

 

タイミングがあわず、なかなか訂正できなかったのだが、それに気づいた私の指導教官が、「違う!彼女はミチコじゃない!」と割って入ってくれた。

先生!だから好き!と思っていたら、

「彼女はミチコじゃなくて…カ、カ、カメコ…」

お前も間違ってんのかよ。

 

ぐったりして、家でも少し暗くなっていたら、夫が何があったのか話せ、という。

しつこく聞くので、お前の甥っ子と、教授の件でモヤモヤしてたんだよ、というと、「本当に辛い思いをした時に今のことを思い返せば、なんてつまらない事で悩んでいたんだ、あの時は幸せだった、と思うんだよ。」と、なんか賢者っぽいセリフを言われた。

モヤモヤしていた気持ちは、全て怒りに変わった。

 

Día Internacional de la Mujer

3月8日は国際女性の日であった。

マドリードでもストやら行進やら、女性の日にちなんだイベントやら目白押しだった。

 

以前スペインで仕事をしていた時、2人の女性従業員から、国際女性の日のストに参加するため、その日は仕事を休む、と連絡があった。

当時の彼女たちは育休の後の時短勤務で、残業、出張などが全くできないため、私含む他の3人の従業員で仕事を回していた。

職種の関係から日本の年度末の影響を受けることがあり、3月ともなると深夜3時に仕事が及ぶことや、全員毎週出張という恐ろしいスケジュールになることもあったが、特に文句も言わずにこなしていた。

 

ストに参加する女性従業員は「この職場に不満があるわけじゃないんだけど、まだまだ不平等な扱いを受けている女性のために立ち上がりたい」とのことだった。

 

それを聞いて、理性ではこれまでの女性たちのそういう活動が身を結んで、今の私が恩恵を受けている部分もあるし、ストだって大切な事だと理解できたのだが、いっぽう感情の部分では、「どこにいるか分からん虐げられた女より、今目の前にいる虐げられてる女を助けろよ」と思ったのである。

 

彼女たちは3月8日しっかり休み、私はその分残業をした。

 

 

西班牙

夫は漢字を勉強中で、簡単な漢字ならある程度読めるまでになっている。

そんなある日、当て字表記の「西班牙」をどこかで見かけたらしい。

 

「最初の文字は西って意味でしょ。スペインは日本の西側にあるもんね。だからこの漢字なんだね。」

と得意げに言う。

漢字はすべからく表意文字であると信じている夫は、西班牙にもそれぞれにスペインっぽい意味があると信じきっている。

 

「いや、最初に中国が似た発音の漢字を当てはめて、それを日本も使ってるだけやで。当て字や。」

と教えても、全く信じない。

「違う、お前は間違っている!」

とうるさい。

 

「班も牙も意味があるでしょ。」

と言うので、

「班はグループって意味で、牙はキバって意味やで。」

と教えたら、

「西のケモノっぽい野蛮人の集まりってことかな。」

としょんぼりしていた。

 

面倒なので、訂正するのはやめた。

 

Bailaré sobre tu tumba

スペインの80年代を代表するパンクロックのバンドにSiniestro Totalがある。1981年にグループを結成してから、現在まで活動を続ける息の長いバンドである。

www.siniestro.com

 

彼らが1985年にリリースした¨Bailaré sobre tu tumba"という楽曲を紹介する。

30歳以上のスペイン人なら誰でも一度は聞いたことのあるこの曲は、「お前の墓の上で踊ってやる」というタイトルからなんとなく想像がつく通り、ひたすら「お前」を酷い目にあわせる方法をつらつら並べるだけの、どうしようもない歌であるが、なんだか妙に心に残る。

 

youtu.be

 

Te mataré con mis zapatos de claqué
俺のタップシューズでお前を殺してやる

Te asfixiaré con mi malla de ballet
俺のバレエのレオタードでお前を窒息させてやる

Te ahorcaré con mi smoking
俺のタキシードでお前の首を絞めてやる

Y morirás mientras se ríe el disc-jockey

ディスクジョッキーが笑ってる間にお前は死ぬんだ

 

Y bailaré sobre tu tumba

そしてお前の墓の上で踊ってやる

 

Te degollaré con un disco afilado

研いだレコードでお前の首を掻っ切ってやる


De los Rolling Stones, o de los Shadows

ローリング・ストーンズのか、それかシャドウズ*1のだ


Te tragarás la colección de cassettes

お前はカセットのコレクションを飲み込むんだ


De las Shan-Gri-Las o de las Ronettes

シャングリラスのやつか、ザ・ロネッツのやつ*2

 

Y bailaré sobre tu tumba

そして俺はお前の墓の上で踊ってやる

 

Te clavaré mi guitarra

俺のギターでお前をぶっ叩いてやる


Te aplastaré con mi piano

俺のピアノでお前を押しつぶしてやる


Te degollaré con mis platillos

俺のシンバルでお前の首を掻っ切ってやる


Te trepanaré con mi órgano Hammond

俺のハモンドオルガンでお前の頭に穴を開けてやる

 

Y bailaré sobre tu tumba

そして俺はお前の墓の上で踊ってやる

 

 

 

 

*1:50年代から活躍するイギリスのロックバンド

*2:シャングリラスもザ・ロネッツも 60年代に活躍したアメリカの女性ポップグループ